約2か月前のブログエントリ「暗号通貨、仮想通貨交換業の税務」で、
3. ICOをする場合、仮想通貨交換業となるか?
暗号通貨界隈では「ICO(Initial Coin Offering)」が話題です。
ICOについては、下記の記事などが参考になります。
Ethereum Based BAT ICO Raises $36 Million in 30 Seconds to Disrupt Advertising
http://www.trustnodes.com/2017/05/31/ethereum-based-bat-ico-raises-36-million-30-seconds-disrupt-advertising上記は、BATという広告系のトークン(トークンも暗号通貨の一種)がICOをして、30秒で約40億円も資金調達したというような記事です。
他にも、下記など。
【bitcoin news】現代に蘇るケインズ通貨「バンコール」、ブロックチェーンICOで167億円調達
http://btcnews.jp/5k8o872y11509/すごい額なので、今後、日本でもICOをしようとするスタートアップが出てくるのではないかと思うのですが、こういったトークンも改正資金決済法上の仮想通貨なのだとすると、まさにさきほどの「一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換」を「業として」やっているのではないかと思いますので、個人的には、仮装通貨交換業の登録が必要だと思います。
と書いたのですが、「こういったトークンも改正資金決済法上の仮想通貨なのだとすると」の前提の部分の検討が少し甘かったように思い、以下、続編です。
目次
1. 暗号通貨と仮想通貨の違い
2. 海外の事情
3. トークンセールとICOの違い
4. 資金決済法第2条第5項
5. 資金決済法第2条第7項
6. トークンセールの段階で仮想通貨交換業ライセンスは必要か?
1. 暗号通貨と仮想通貨の違い
前回のブログエントリでも触れましたが、暗号通貨(CryptoCurrency)という言葉は「概念」であり、仮想通貨という言葉は日本の「法令用語」だと、個人的には理解しています。
ベン図で言えば、大きい円が「暗号通貨」、その中にある小さい円が「仮想通貨」です。
2. 海外の事情
日本の金融商品取引法的なところで規制をしているのは、下記などによると、現在、米国くらいではないかと理解しています。
【TechCrunch】日本の仮想通貨法を武器とした資金調達のICOプラットフォーム「COMSA」をテックビューロが発表
http://jp.techcrunch.com/2017/08/03/ico-platform-comsa/
以下引用です。
1年後の2017年7月25日にSEC(米証券取引委員会)が発表したレポートでは、The DAOを調査した結果「有価証券にあたり規制対象となる」と結論付けている。The DAOは事業リスクをデジタルなトークンの形にしたもので、証券法の対象となるとの指摘だ。
3. トークンセールとICOの違い
上述の暗号通貨「Ethereum Based BAT」は、現在、暗号通貨時価総額ランキング34位。時価総額約230億円ですが、私が見ていた限り、トークンセール(イーサリアムをベースにした独自トークンBATのプレセール)をした翌日には、poloniexに「上場」していました。
要するに、仮装通貨取引所に上場することを「ICO」というのであれば、その前にエンジェル投資家”的”な人たちにクラウドファンディング的に募集するのが「トークンセール(プレセール)」と言えるのかもしれません。
4. 資金決済法第2条第5項
資金決済法を見ていきましょう。
そもそも「暗号通貨」のうち、法で定義された「仮想通貨」とはなんなのか?
資金決済法第2条(定義)
5 この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
要するに、
◯相手がいて、その相手からモノを買ったり、借りたり、サービスを受けたときに、
◯「電子機器その他の物に電子的方法により記録されている」財産的価値のある、いわゆる暗号通貨のうち、
◯「不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」
ものは、「仮想通貨」になるということだと思います。
また、
◯それを「電子情報処理組織を用いて移転すること」で、「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができ」、かつ、「電子機器その他の物に電子的方法により記録されている」財産的価値(つまり、こちらは必ずしもさきほどのモノを買ったりサービスの提供を受けるために使われる必要がない?)
も、「仮想通貨」になるということだと思います。
最初の資金決済法第2条第5項第1号の「仮想通貨」は、例えば、現状、ビックカメラやマルイなど「不特定の者に対して」使えるBitcoinなどがドンピシャにハマるように思います。
次の同法同条同項第2号の「仮想通貨」は、上記のBitcoinなどとインターネット上などで「不特定の者を相手方として」交換できる、要するに、取引所にICOしている暗号通貨などがハマるように思います。
以前、TechCrunchにこんな記事が出ていました。
【TechCrunch】株式のように自分の価値を取引できる「VALU」、購入にはビットコインを利用
http://jp.techcrunch.com/2017/06/01/valu/
いま読むと、
(2017年6月2日18時11分 編集部注:VALU内外でのビットコインの扱いなど、記述に不足があったため、1,12,13段落の内容を加筆・修正しました)
とあるのですが、私の記憶では、「金融庁と話しているところ、VALUは資金決済法上の「仮想通貨」には当たらなさそう」という旨が最後に記載されていました。(記憶ベースなので、間違っていたらすいません。)
確かに、ビックカメラやマルイなどでモノを買ったりサービスの提供を受けることができず、あるいは、取引所にもICOしておらず、「不特定の者を相手方として」交換することもできないトークンは、暗号通貨だけれども仮想通貨ではないと言えるのかもしれません。
2017/9/5追記
その後もいろいろと考えているのですが・・・
VALUでは、人それぞれにBTC建ての価値が付き、売買の板があるので、ビットコインと交換できるのだとすると、資金決済法第2条第5項第2号に該当するのではないかという気もします。
5. 資金決済法第2条第7項
ここでも、資金決済法を見ていきましょう。
資金決済法第2条(定義)
7 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。
要するに、
◯ビットコインなどの仮想通貨を、「業として」、販売所や交換所などで売ったり交換していたり、
◯そういったことを「媒介、取次ぎ又は代理」していたり、
◯それに関連して、「利用者の金銭又は仮想通貨の管理」をしたりすると、
「仮想通貨交換業者」になるということかと思います。
つまり、bitFlyer、coincheck、Zaif、bitbankなどのように、実際に取引所をすでに運営している場合は、普通に考えて「仮想通貨交換業者」になりそうですが、ICO(取引上に上場)する前にトークンをプレセールする分には「仮想通貨交換業者」にはなりそうもなく、ICO後に「業として」トークンセールをすると「仮想通貨交換業者」になってしまうのかもしれません。
ポイントは「他の仮想通貨」との交換というところで、既述の”仮想通貨ではない暗号通貨”とビットコインなどの仮想通貨を交換する分には「仮想通貨交換業者」には当てはまらないのではないかと思います。
また、蛇足ですが、OTC取引も、「業として」行わなければ、「仮想通貨交換業者」には当てはまらないのかもしれません。
6. トークンセールの段階で仮想通貨交換業ライセンスは必要か?
上記のとおり、少なくとも、そのトークンが仮想通貨ではなく(まだ)暗号通貨なのであれば、仮想通貨交換業ライセンスは要らないのではないかというのが、私個人的な結論です。
以上、私見ですので間違っているところもあるかもしれず、「間違ってるんじゃね?」というところがありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。再度検討します。(実際、実務の現場ではいろいろと意見があり、結論も割れているように思います。)
また、上記は個人的な考察ですので、この考察をもとに生じた一切の損失について、弊事務所、弊社は、免責とさせていただきますことをお断りし、実際にトークンセールをされたり、仮想通貨をビジネスにされようとしている方は、顧問弁護士の先生などにご確認の上、取引を実行されてください。